【2025年版】SaaSビジネス必須用語集|CAC, LTV, Churn Rateなど業界用語を解説

そもそもSaaSとは
SaaS(サースまたはサーズ)は、「Software as a Service」の略称で、ソフトウェアを利用者側に導入するのではなく、提供者(サーバー)側で稼働しているソフトウェアを、インターネットなどのネットワーク経由で、利用者がサービスとして利用する形態を指します。これは、製品化されたパッケージを販売するのとは異なり、クラウド上でサービスが提供されるため、インターネット環境があればすぐに利用できる利便性が大きな特徴です。SaaSは、ソフトウェアによるWebサービスの総称と言えます。
導入のメリットとしては、導入までの納期の短縮や、利用者側での自社構築と比べて設備投資の削減による利用料金のコストダウンが挙げられます。一方、デメリットとしては、自社構築と比べてソフトウェアのカスタマイズの自由度が低いことが挙げられます。各企業はこれらのメリット・デメリットを考慮して導入を検討します。
SaaSの種類(Horizontal SaaS, Vertical SaaS)
SaaSは、その用途や対象とする業界によって主に二つに分類されます。
Horizontal SaaS(ホリゾンタル SaaS)
Horizontal SaaSとは、業界や業種を問わず、広く利用される汎用型のSaaSを指します。人事、会計、営業など、どの業界にも存在する部門や、メール、会議といった汎用的な業務の課題を解決するSaaSがこれに該当します。具体例としては、クラウド会計SaaS、クラウド労務管理SaaS、チャットツール、クラウド型会計システム、営業支援システム(SFA)、採用管理システム(ATS)などがあります。
Vertical SaaS(バーティカル SaaS)
Vertical SaaSは、特定の業界や業種に特化したSaaSです。その業界特有の課題や、汎用型であるHorizontal SaaSでは対応しきれない業務に対応した機能を持っているのが特徴です。専門性や独自の慣習が必要な業界、あるいはただモノを売るだけではない業界(医療、建設、ホテルなど)向けのプロダクトがVertical SaaSとして挙げられます。具体例としては、医療業界の電子カルテシステムや、飲食店向けのクラウドレジシステムなどがあります。
SaaSビジネスの収益・成長指標
SaaSビジネスは、顧客が定期的に利用料を支払い、サービスを継続的に利用することによって収益が発生するサブスクリプション型のビジネスモデルです。そのため、「一度買ってもらったら終わり」の売り切り型ビジネスとは異なり、契約期間中はずっと収益が発生します。SaaSビジネスでは、年間・月間で期間を区切った収益を把握したり、現時点での確約された収益で今後の見通しを判断したりすることが一般的です。
経常収益(MRR, ARR, CMRR)について
MRR(Monthly Recurring Revenue)
MRR(エムアールアール)は、月次経常収益、または月間定期収益と訳されます。SaaSビジネスにおいて、毎月継続的に発生する収益額を示す重要な指標です。一時的な収益(初期費用など)は含まれません。SaaSビジネスの初期段階では、ビジネスの成長率を判断するために重要な指標とされ、多くのSaaS企業が達成すべき指標として設定しています。
ARR(Annual Recurring Revenue)
ARR(エーアールアール)は、年間経常収益を意味します。多くの場合、月間経常収益(MRR)を12倍して算出されます。ARRは企業の成長性を測る重要な指標として使われます。新規顧客の定着や解約などを把握するため、ARRの推移の確認は重要であり、MRRと併せて事業計画で達成すべき指標として設定されることが多いです。
CMRR(Committed Monthly Recurring Revenue)
CMRR(シーエムアールアール)は、既決月次経常収益と訳されます。MRRの中でも、契約により確約された月間収益額を示す指標です。初期費用など1回きりの支払いは含まず、今後の解約、アップグレード、ダウングレードも加味した収益額であり、MRRよりも将来得られる予測精度の高い収益額となります。年額プランによって将来的に受け取ることが決まった収益のことを指す場合もあります。
契約金額・収益(ACV, TCV)について
ACV(Annual Contract Value)
ACV(エーシーブイ)は、年間契約金額と訳されます。製品・サービスの契約により、顧客が1年間に支払うことになる金額の合計です。年間経常収益であるARRに加えて、初期費用やオプション費用なども含みます。契約を基にした確度の高い収益状況を捉えており、自社サービスの契約状況を把握する時に使用します。
TCV(Total Contract Value)
TCV(ティーシーブイ)は、合計契約金額と訳されます。製品・サービスの契約により、顧客が契約期間内に支払うことになる金額の合計です。ACVが1年間であるのに対し、TCVは契約から解約までの期間全体の金額が含まれます。契約期間が続くほど、TCVは高くなります。
成長速度・戦略に関する指標
Quick Ratio(クイックレート)
Quick Ratio(クイックレート)は、SaaS企業の成長速度を測る指標であり、当座比率とも呼ばれます。一定期間内に増加したMRR(新規顧客からのNew MRRと既存顧客からのExpansion MRR)と、減少したMRR(解約によるChurn MRRとダウングレードによるContraction MRR)の比率を表す経営指標です。MRRが月ごとの成長率を測るのに対し、継続的な収益を得られるか否かを測るのに役立ちます。Quick Ratio =(New MRR+Expansion MRR) / (Churn MRR+Contraction MRR)で計算されます。
SaaSの場合、「4」を目安とするのが一般的で、この値が4以上であれば成長速度が速く、今後の成長が期待できることを意味します。
T2D3(ティーツーディースリー)
T2D3とは、「Triple, Triple, Double, Double, Double」(3倍、3倍、2倍、2倍、2倍)の略で、SaaSビジネスで安定的に運用するための考え方のひとつです。PMF(Product Market Fit)達成後の5年間で、ARR(年間経常収益)を72倍に成長させるという目標を指します。初年度と2年目に売上を3倍、その後の3年間は売上を2倍にする目標を意味します。この指標を達成できるSaaSは良いプロダクトであるとされ、多くのSaaSプロダクトを展開する企業がこの指標を目指し、事業計画を作成しています。
Rule of 40%(ルール・オブ・フォーティー)
Rule of 40%は、成長率と利益率の合計が40%以上であれば、健全な成長を遂げているとされる指標です。高成長を目指しつつも、収益性も確保しているかを判断する際の目安としてSaaS企業でよく用いられます。
市場規模(TAM, SAM, SOM)
TAM、SAM、SOMは、市場規模を分析する際に押さえておきたい3つの用語です。基本的にはセットで用いられることが多く、自社のビジネスの可能性について言及される際などに使われます。
- TAM(Total Addressable Market):ある特定の事業が獲得でき得る可能性のある全体の市場規模、事業が理論的に獲得し得る最大の市場価値を意味します。
- SAM(Serviceable Available Market):事業がターゲットにし得る市場規模、TAMのうち実際にサービスを提供可能な市場の範囲を意味します。
- SOM(Serviceable Obtainable Market):SAMの中でも現実的に獲得できる市場規模、実際にアプローチ可能で、一定の獲得が見込める規模の市場の範囲を指します。
プロダクトと市場の合致(PMF)
PMF(Product Market Fit)は、プロダクトと市場のニーズが合致し、顧客に受け入れられている状態を指します。SaaSビジネスにおいて、PMFの達成はユーザーの獲得と継続的な収益、そして事業成長に欠かせないものと言えます。多くのスタートアップ企業がSaaSプロダクトを展開し、PMF達成とその後の急成長を目指しています。
SaaSビジネスの顧客・ユーザー関連
ユーザー分類・活動度について
AU(Active User)
AUとはアクティブユーザーのことを指し、自社の製品・サービスを積極的に活用している顧客のことを言います。SaaSを利用しているAUを、DAU、WAU、MAUといった観点で分析することがあります。
DAU(Daily Active User)
DAU(ディーエーユー)とは、1日間でサービスを利用したアクティブユーザー数を指します。ユーザーの利用状況を1日単位で把握する指標として用いられます。SaaSに限らず、ゲームなどのアプリケーション、Webサイト、SNSなどのWebサービスにおけるユーザーの利用状況を把握するために使用されます。
WAU(Weekly Active User)
WAU(ダブリューエーユー)とは、1週間あたりのアクティブユーザー数を指します。週1回以上サービスを利用したユーザー数の指標として扱われ、企業が週次でのユーザーエンゲージメントを評価するための重要な指標となります。
MAU(Monthly Active User)
MAU(エムエーユー)とは、1ヶ月あたりのアクティブユーザー数、または1か月間にサービスを利用したアクティブユーザー数を意味し、月1回以上、サービスを利用したユーザー数を表す指標です。
スティッキネス(Stickiness)
スティッキネスとは、商品やサービスに惹きつけられている度合いを示す指標で、直訳すると「粘着性」という意味があります。月間のアクティブユーザー数に占める1日単位で使うユーザー数の割合を示します。DAU ÷ MAUで数値化することが可能です。一般的に、ユーザーがサービスを利用している時間や回数から計測しますが、必ずしも両方の条件を満たしている必要はありません。高いスティッキネスは、ユーザーがサービスを頻繁に利用していることを意味し、エンゲージメントが高いと判断できます。
RFV(Recency・Frequency・Volume)
RFV(アールエフブイ)とは、「Recency|直近の利用状況」「Frequency|利用頻度」「Volume|利用量」の3つの要素をまとめた言葉です。SaaSビジネスを推進する上で、顧客を分類する3要素であり、顧客の商品・サービスの利用状況や満足度を表す分析手法として、活用しきれていない顧客へのアプローチ方法を検討する目的で利用されます。これらの指標を軸に、顧客へのアプローチを検討することで、マーケティングの精度を高めることができます。
RFM分析
RFM分析とは、Recency(最終購入日)、Frequency(一定期間内の購入頻度・購入回数)、Monetary(購入金額)の3つの指標で顧客を分類する分析方法です。RFVのVolume(利用量)ではなく、利用金額(Money)を軸に分析する手法で、顧客層に分けてマーケティングを行うのに有効な分析方法といえます。高級ホテルやリゾート、高級車の販売など、富裕層向けのマーケティングアプローチを検討するのに利用されています。
顧客ロイヤリティ・満足度
NPS(Net Promoter Score)
NPS(エヌピーエス)は、「Net Promoter Score」の略で、顧客推奨度、顧客ロイヤリティを数値化した指標です。顧客がどのくらい企業のサービスを他者に勧めたいと感じているか、または商品やサービスに愛着を持ち、他人に薦めたいと思うかを見える化した指標です。顧客に商品を知り合いに勧めたい度合いを、0〜10の点数で答えてもらい、推奨者(9〜10点)、中立者(7〜8点)、批判者(0〜6点)に分類し、(プロモーター数 − デトラクター数) / 回答者総数 × 100 で算出します。NPSが高いほど、顧客ロイヤリティも高いといえます。
NRS(Net Repeater Score)
NRS(エヌアールエス)は、「Net Repeater Score」の略で、顧客継続度と訳されます。顧客がどのくらい企業のサービスを続けたいと感じているかを可視化した指標です。
顧客獲得関連コスト
CAC(Customer Acquisition Cost)
CAC(シーエーシー)は、「Customer Acquisition Cost」の略で、顧客獲得単価と訳されます。顧客を1件成約・獲得するのにかかった費用、一人または一社の顧客を獲得するためにかかるコストを指します。マーケティング活動、広告宣伝費、セールスチームの給与、プロモーション費用、顧客獲得のためのツールやソフトウェア利用費など、様々な要素から構成される顧客獲得にかかる総コストを、新たに獲得した顧客数で割ることで計算されます。CACが高すぎると、顧客から得られる収益がコストを上回るまでに長い時間がかかり、収益性が低下するため、健全性を確保するためにCACを抑えることが重要です。
CAC Payback Period(CACペイバックピリオド)
CAC Payback Period(シーエーシーペイバックピリオド)は、「Customer Acquisition Cost Payback Periods」の略で、顧客獲得コスト回収期間と訳されます。収益を得ることで、CAC(顧客獲得単価)をいつ頃回収できるかを示した指標です。CACを回収できるまでの期間を指し、平均CAC ÷ (ARPA×売上総利益)、または CAC / (1顧客当たりの平均売上金額×売上総利益率) で算出できます。
顧客生涯価値・採算性
LTV(Lifetime Value)
LTV(エルティーブイ、ライフタイムバリュー)は、「Life Time Value」の略で、顧客生涯価値と訳されます。顧客が企業に生み出す利益を、1件当たりの平均で算出した指標、またはサービスの継続契約によって顧客から通算で見込まれる収益のことです。
SaaSに限らず、サブスクリプションモデルのビジネスにおいて重要指標とされています。
顧客獲得にかかる費用(CAC)と比較し、顧客から得られる収益の価値を示す指標として用いられ、一般的にLTVが高いほど顧客からの収益が大きいことを意味します。
B2B SaaSの場合、(顧客一人当たりの平均MRR×売上総利益率) ÷ 顧客月次チャーン率で算出できます。LTV = ARPA または ARPU × 平均継続期間 と計算されることもあります。LTVはSaaS以外のビジネスモデルでも使用され、計算方法がケースバイケースで異なります。
Unit Economics(ユニットエコノミクス)
ユニットエコノミクスは、顧客1人あたりの採算性、または1顧客当たりの採算性や収益性を評価するための指標です。LTV(顧客生涯価値)とCAC(顧客獲得単価)とで示される、顧客企業1社あたりの収益性、またはLTVをCACで割った値として算出されます。LTV ÷ CACで計算されます。SaaSビジネスでは、ユニットエコノミクスの値が3以上あると健全と言われており、ベンチャーキャピタルによる投資判断にも活用されています。
SaaSビジネスの営業・マーケティング
SaaSビジネスでは、見込み顧客を獲得して商談を進める過程で専門的な用語が多く使われます。リード獲得から成約までの各プロセスや、セールスチームの役割分担について理解することで、SaaSにおける営業活動の基本的な流れが把握しやすくなります。
リード(Lead)
リード(Lead)は、自社の商品・サービスに興味を示している見込み顧客のことを指します。BtoBマーケティングの分野ではよく使われている言葉です。顧客の検討段階に応じて以下のように分類されます。
MQL(Marketing Qualified Lead)
MQL(エムキューエル)は、「Marketing Qualified Lead」の略で、マーケティングによる認定済み見込み客、またはマーケティング部門が自社商品・サービスへの興味をさらに深めてもらう段階の見込み客(リード)、あるいはそのリストをいいます。マーケティング活動を通じて「関心が高い」と認定された見込み顧客を指します。まだ具体的な商談の準備は整っていないものの、興味を持っていると判断される段階で、一般的にセミナー参加やホワイトペーパーのダウンロードなど、マーケティング施策に反応した見込み客がMQLに該当します。
SAL(Sales Accepted Lead)
SALは、マーケティング活動によって創出された見込み顧客(MQL)の中でも、より成約の可能性がある見込み顧客のことです。商談機会を取りつけられた見込み顧客がSALに該当します。
SQL(Sales Qualified Lead)
SQL(エスキューエル)は、「Sales Qualified Lead」の略で、営業による認定済み見込み客、またはセールスに値するリードという意味です。顧客のニーズが顕在しており、営業部門が受注の確度が高いと判断した見込み顧客のことを指します。営業チームがフォローすべき対象として判別した見込み客を指します。SALを営業部門が引き継いで商談を進めている見込み顧客が該当します。
リード獲得・成果
Lead Generation(リードジェネレーション)
Lead Generation(リードジェネレーション)は、「見込み顧客開拓」と訳され、ビジネスやマーケティングの領域において、潜在的な顧客や見込み客(リード)を獲得するための活動やプロセスを指します。新規の見込み顧客(リード)に対し、WEBサイトやSNSを利用して開拓、集約する手法です。企業はリードを獲得し、その後の営業活動やマーケティングキャンペーンに活用することで、売上の増加やビジネスの成長を促進しますが、SaaSビジネスのビジネスプロセスにおいては、商談にて失注した顧客を再びリードとして扱い、営業活動を行っていくことが多いです。
CVR(Conversion Rate)
CVR(シーブイアール)は、「Conversion Rate」の略で、成果率、または成約率を示します。主にマーケティングにおいて、成約(Conversion、CVと略すことが多い)のことを指し、広告を配信・出稿してどのくらいコンバージョン(成果)に繋がったかを示す指標、またはWebサイト訪問者や広告をクリックしたユーザーが、どのくらい成果(お問い合わせや資料請求など)に達したかの割合を示す指標です。
F2転換率
F2転換率とは、新規の顧客のうちで、2回目に購入した割合を示す指標です。2回目の購入をした顧客数 ÷ 新規顧客数 × 100 で算出できます。
ROAS
ROASとは、「Return On Advertising Spend」の略で、広告費用の回収率を意味します。広告費に対して得た売上の割合を表したもので、広告経由の売上 ÷ 広告費 で算出できます。
CPE(Cost Per Engagement)
CPEとは、エンゲージメントに対してのコストを表します。特に、SNSの広告や、Google広告などの課金広告を利用した際に用います。発生した広告コスト ÷ エンゲージメント数 で算出でき
Self Serve
Self Serveとは、顧客自身が利用登録からサービスの開始までの手続きを行うことを指します。営業やカスタマーサポートなどは、顧客からの申し出がなければ関与しません。
AE(Account Executive)
AE(アカウントエグゼクティブ)は、「Account Executives」の略で、アカウント管理者、または営業担当者を指します。新規顧客の獲得を目的にした営業担当者を指す場合が多く、潜在顧客にプロダクトやサービスのデモを行い、価格交渉やクロージングを行う営業担当者と説明されることもあります。
顧客に合わせて新たな商品やサービスを企画提案し、予算の配分やクロージングを行います。広告代理店のクライアント窓口を指す場合もあります。省略して「AE」と表現することも多いです。SQL(受注の可能性が高い見込み顧客)へ商品・サービスの提案などを行い、クロージングを目指す役割を担います。
AM(Account Manager)
AM(アカウントマネージャー)は、契約締結後の顧客と関係性を構築し、ニーズの把握やフォローアップを行う営業担当者を指します。SaaSビジネスでは解約を防ぐことが安定した運営につながるため、重要なポジションと言えるでしょう。「AM」と呼ぶ場合もあります。
GTM (Go-To-Market) 戦略
SaaSビジネスにおけるGo-To-Market(市場開拓)戦略には、主に以下のモデルがあります。
SLG(Sales-Led Growth)
SLGは、「Sales-Led Growth」の略で、セールス主導の成長を示す単語です。営業担当者がリード発掘からクロージングまで主導し、顧客の意思決定を伴走する成長モデルです。
エンタープライズ向けなど、高単価・多機能な製品や導入条件などが複雑なSaaSで採用されやすいのが特徴です。具体例としては、Salesforce(営業支援システム)やOracle Fusion Cloud ERP(ERPシステム)が挙げられます。SLGでは契約単価と継続率が高くなる一方、営業の人的なコストが大きくなるため、CACの回収期間が長くなる傾向があります。
PLG(Product-Led Growth)
PLGは、プロダクトの体験によって顧客を惹きつけ、製品を売るGTM戦略を示します。主に無料トライアルやフリーミアム施策によってユーザー登録を促し、プロダクト体験を通じて商材の価値を実感してもらう流れになります。
具体例としては、Zoom(ビデオ会議ツール)やFigma(デザインツール)が挙げられます。PLGでは、「Time to Value(TTV)」(新規顧客の登録からプロダクトの価値を体験するまでにかかる時間)などの指標を把握しながら、オンボーディングや課金までの施策を改善していきます。
SLGは営業担当者が顧客にアプローチして製品を売るモデルを示しますが、PLGはプロダクトの体験を重視する点で異なります。顧客獲得プロセス、重視するKPI、必要となる組織体制において両者は根本的に異なるアプローチです。
CLG(Community-Led Growth、Content-Led Growth)
CLGは、「Community-Led Growth」(コミュニティ主導の成長)もしくは「Content-Led Growth」(コンテンツ主導の成長)を示す単語です。
- Community-Led Growth(コミュニティ主導の成長)
企業がユーザー同士の交流を積極的にサポートし、プロダクトの枠を超えてコミュニティという価値を提供することで事業を成長させるGTM戦略を示します。拡張機能や設定パターンが多く、ユーザー同士の知見共有が価値を生む開発者向け・データ系ツールのSaaSに向いています。Figmaなどが具体例として挙げられます。 - Content-Led Growth(コンテンツ主導の成長)
オウンドメディアや顧客事例、動画、ホワイトペーパー(お役立ち資料)などのコンテンツを用意・活用し、既存顧客に対して良好な関係を構築、維持したり、新規顧客を獲得したりすること(例: クロスセル案件の創出など)に重点を置いたGTM戦略です。業務のハウツーや業界ベストプラクティスが購買動機になるようなBtoB向けSaaSや、人事や会計のような検索ボリュームが大きく、取り扱うトピックが多い分野で活用されます。HubSpot(顧客管理ツール)などが具体例として挙げられます。
SaaSビジネスの顧客継続・成功
SaaSでは、製品・サービスの契約期間中、継続して利益が発生します。ユーザーにいかに長く製品・サービスを利用し続けてもらうかが、ビジネスの成果に大きく影響します。
解約率・継続率
Churn Rate(チャーンレート)
Churn Rate(チャーンレート)は、「解約率」のことを指し、全体の顧客数に対する解約の割合を示します。SaaSのようなサブスクリプション型のビジネスモデルでは、解約率は重要な指標の1つです。
Churn Rateには、主に以下の2種類があります。
- Customer Churn Rate(カスタマーチャーンレート)
顧客数を基準にした解約率です。一定期間における解約した顧客の割合を示します。計算式は(当月解約した顧客数 / 前月末の顧客数)× 100 です。Customer Churnも退会した顧客や、有料プランから無料プランへダウングレードしたユーザーを指す用語として用いられます。 - Revenue Churn Rate(レベニューチャーンレート)
損失額や収益の増減額を軸に算出される解約率です。以下の2種類があります。- Gross Churn Rate(グロスチャーンレート)
一定期間の収益のうち、解約やプランのダウングレードによる損失額の割合を示します。Gross Churnはある特定期間における総顧客離脱率を表し、新規顧客や追加顧客を考慮せずに、総顧客数で離脱した顧客数を割ったものとなります。計算式は(当月の損失額 / 前月末の経常利益)× 100、またはその月に失ったMRR ÷ その月最初のMRR です。 - Net Revenue Churn Rate(ネットレベニューチャーンレート)
一定期間の収益のうち、解約やプランのダウングレードによる損失額と、既存顧客のアップグレードやクロスセルによる増収額を合わせた金額の割合を示します。ここには、新規顧客からの収益は含みません。Net Churnはその月に失ったMRRと、サービスのアップグレードなどで増えたMRRをふまえた割合のことです。計算式は(当月の損失額 – 増収額) / 前月末の経常収益 × 100、または(その月に失ったMRR-サービスのアップグレードなどによって増えたMRR)÷その月最初のMRR です。
- Gross Churn Rate(グロスチャーンレート)
なお、ネットレベニューチャーンレートがマイナスの値になることを「Negative Churn(ネガティブチャーン)」と呼びます。この状態は解約やダウングレードによる損失額よりも、既存顧客のアップグレードやクロスセルによる増収額が上回っているため、事業が成長傾向と言えます。
CRR(Customer Retention Rate)
CRR(シーアールアール)は、「Customer Retention Rate」の略で、顧客維持率と訳されます。一定期間内で、顧客がどの程度維持できているかを示す指標、または顧客が一定期間でどのくらい継続利用しているかを示す指標です。計算式は(前月から継続している顧客数 / 前月末の顧客数)× 100 です。
NRR(Net Revenue Retention)
NRR(エヌアールアール)は、「Net Revenue Retention」の略で、売上継続率、または売上維持率のことを指します。顧客数を基にしたCRRに対し、NRRは既存顧客による売上の割合を示す指標です。
顧客からの収益が、一定期間でどれほど増減しているのかを示す指標です。NRRが100%以上あれば、安定している運営状態と言えます。ある特定期間における純売上保持率を表し、新たに獲得した顧客の追加収益やアップセル(追加販売)収益を含めた既存の顧客からの売上を、初期の顧客売上に対して比較することで計算されます。計算式は(継続利用の顧客の売上 / 前月末の売上)× 100 です。
Customer Renewal Rate
Customer Renewal Rateとは、既存顧客の契約更新率のことです。計算式は(X期間に契約を更新した顧客数] / [X期間に契約が終わる顧客数)です。
顧客成功支援
Customer Success(カスタマーサクセス)
Customer Success(カスタマーサクセス)は、「顧客の成功体験」と訳され、顧客の成功を、自社の商品やサービスで支援するビジネスの手法です。積極的に顧客への働きかけを行い、顧客が望む価値を実現するために自社の製品・サービスを最大限活用できるよう支援する取り組みの総称です。
顧客の目標達成をサポートすることが、顧客離れを減らすことにもつながります。SaaSビジネスは、継続的に商品・サービスを利用してもらうことで安定的な収益につながるため、この取り組みが重要視されています。省略して「CS」と表現することもあります。
コホート分析(Cohort分析)
コホート分析とは、「共通因子を持った集合体」(コホート)を示し、共通因子を持った集団を属性や条件でグループ分けし、動向を追跡する分析方法です。元々は心理学で使われていた方法ですが、現在はSaaSのユーザーの維持率を見る際などに使われるほか、広く一般にECサイト内のユーザー分析などにも用いられます。
特定のSNS広告経由で登録したユーザー群(コホート)の継続率を追跡し、施策の影響を分析するなどの活用例があります。コホート分析によってSaaSのユーザーの動向や施策結果の原因調査や改善策につなげることができます。
マジックナンバー(Magic Number)分析
マジックナンバー分析とは、ユーザーの行動とサービスのグロースを分析し、サービスが飛躍的に成長・定着する要因を特定する手法です。具体的に「ユーザーが特定の行動を○回実施すると定着率が著しく向上する」といったパターンを見つけることで、プロダクトの改善やマーケティング施策に活用するケースが多く、そのパターン自体を「マジックナンバー」というケースもあります。
例えば、Slackでは「チームで合計2,000メッセージを送信」、Facebookでは「登録後10日以内に7人の友達を追加」 といった行動がマジックナンバーとして知られています。マジックナンバー分析によって傾向が判明したあとは、チュートリアルや初期設定ウィザードの改善、次の操作を促すドリップメール送信など、マジックナンバーの達成を支援する施策に活用されます。
Premium/Professional Service
Premium/Professional Serviceとは、サービスの仕様変更や、コンサルティングなどの一時的な収益を指します。そのため、MRR売上は含みません。
SaaSビジネスのサービス品質・運用
サービスレベル(SLA, SLO, SLI)
SaaSビジネスでは、サービスの品質や信頼性を確保するために、利用契約やサービス目標に関する用語が用いられます。
SLA(Service Level Agreement)
SLA(エスエルエー)は、「Service Level Agreement」の略で、「サービスレベル保証」と訳されます。サービスの品質や信頼性についてサービス提供者(SaaS事業者)と利用者の間で合意する契約です。サービスの稼働率や応答時間、復旧目標などが明示されています。例として、月間稼働率99.95%を保証し、ダウンタイムは月間で約21.6分が許容される、といった形で示されます。
SLO(Service Level Objective)
SLO(エスエルオー)は、「Service Level Objective」の略で、「サービスレベル目標」のことを指します。SaaS事業者と利用者が合意するSLAよりも厳しい目標値が設定されており、サービス利用者に開示されることは多くありません。SLAを守るために、SaaS事業者の内部的な目標水準として設定されています。例として、月間稼働率99.99%を設定し、ダウンタイムを月間で約4.32分まで許容する、といった形で設定されます。
SLI(Service Level Indicator)
SLIは、「Service Level Indicator」の略で、「サービスレベル指標」のことを指します。SLOで設定された目標が達成されているかどうかを評価するための具体的な測定指標です。一般的には、可用性、待機時間、スループット、エラー率などが上げられます。例として、前月のダウンタイムが13分で、月間稼働率が99.97%であった場合、SLAで定める月間稼働率99.95%を下回っていないため問題なし、といった評価に使われます。
財務・資金関連用語
Burn Rate(バーンレート)
Burn Rate(バーンレート)は、「資金燃焼率」または「現金燃焼率」と訳され、企業が1か月あたりに消費するコスト、または一定期間(通常は月単位)にかけたコストを指します。
ベンチャー、スタートアップ企業においては資金が潤沢でない場合が多い中、月次のマイナスのキャッシュフローを把握しなければ、どれだけの期間、経営を維持できるかを判断できません。SaaSビジネスは顧客基盤が成長するまで一定の資金投下が必要なため、資金が流出するペースを把握するために使われる指標の1つです。そのため、Burn Rateがどの程度で回っているかを押さえるのは必須といえるでしょう。
Runway(ランウェイ)
Runway(ランウェイ)は、「猶予期間」と訳され、手元資金が尽きるまでの期間、または会社の資金が底をつくまでの期間を指します。ランウェイは「資金寿命」を示す重要な指標であり、新たな資金調達のタイミングを計るために使われます。
ZCD(Zero Cash Date)
ZCD(ゼロキャッシュデート)は、「Zero Cash Date」または「Zero Cash Day」の略で、「資金ゼロの時期」と訳されます。そのままでは、資金が尽きてしまう日、または新たな資金調達を行うべき時期の目安となる、新たな収益がなくなった時にキャッシュアウトする時期を示します。
ROIC(Return On Investment)
ROICとは「投資収益率」「投資利益率」を意味します。投資した費用に対しての利益率を指し、高い数値は投資が成功したことを表します。ROICの値が高いほど収益性のあるよい投資であったと判断でき、逆にROICが100%に満たない場合には投資に関して見直しを入れるべきでしょう。
ROI(Return On Investment)
ROIは「投資収益率」を指す言葉です。投資した資金に対してどれだけのリターンが得られたかを示す指標で、事業活動の効果を測定する上で非常に重要です。例えば、顧客獲得のためのマーケティング(広告やキャンペーン)で、投資効率の測定にROIが利用されています。
Webサイト関連用語
UGC(User Generated Content)
UGC(ユージーシー)は、「User Generated Content」の略で、「ユーザー生成コンテンツ」と訳されます。一般ユーザーによって製作・発信されたコンテンツの総称です。SNSや口コミサイトの投稿、レビュー等が該当します。
ビューアビリティ(View Ability)
ビューアビリティは、「View Ability」の略で、「視認能力」と訳されます。WEBサイト上で、実際にユーザーが閲覧できる状態だったかを示す指標です。特定のページは閲覧したもののバナー広告の位置までスクロールしなかった等、実際に視認できるレベルで表示されていたかを測れます。
CTA(Call To Action)
CTA(シーティーエー)は、「Call To Action」の略で、「行動喚起」と訳されます。WEBサイトの訪問者に対し、フォームやバナーのクリック等、特定の行動に誘導する施策の総称です。
まとめ
SaaSビジネスには、独特な言い回しが多い専門用語が数多く存在します。これらの用語は、事業運営、セールス、マーケティング、顧客成功など、様々な側面における成果や状態を理解する上で欠かせません。用語の意味とどのような場面で用いられるかを正確に押さえることで、SaaSビジネスの全体像をつかみ、混乱を防ぎ、ビジネスの現場で使いこなせるようになります。
特に、ARR(年間経常収益)、ARPU(ユーザー当たりの平均収益)、LTV(顧客生涯価値)、CAC(顧客獲得単価)、Churn Rate(解約率)といった用語は、SaaS事業の評価や業界理解に必要なため、略称も含めて理解しておくことが重要です。これらの共通言語を用いることで、社内外での会話や情報共有がスムーズになります。
一覧表で意味と計算式が見たいという方は、こちらの記事をご確認ください。
